東洋医学と西洋医学
医学といえば、「西洋医学」を意味するようになったのは、明治の医療制度の改変以降のことです。それまでの医学は「漢方医学、東洋医学、皇漢医学、中国医学」と呼ばれ、①湯液(漢方薬による薬物療法)②鍼灸治療の総称として使われてきました。本来、漢方(漢方医学)という用語は、この2つの医学の流れを区別するための言葉で、「漢方薬」を意味するものではないのです。つまり、医学発祥の地が、「漢方(東洋)」か「西方(西洋)」かの違いを表しているのです。
ただし、現在の漢方薬の処方の資格は、西洋医学を学んだ医師のみに与えられているため、東洋医学(漢方医学)を駆使する鍼灸師は、鍼灸による治療のみを行っています。
東洋医学の診断法
東洋医学の診断は、四診(シシン)という方法で行います。四診とは望聞問切(ボウブンモンセツ)の4種で、①<望診>顔や肌の様子②<聞診>臭いや声③<問診>愁訴や病歴④<切診>触診や脈診を行います。東洋医学では、病名が決まらなくても、四診により肝虚・脾虚・肺虚・腎虚等の東洋医学的病症を決定し、治療を開始できます。証に応じて、鍼灸で気(エネルギ-)を動かし、患者さんの身体が自らの不具合を調整し治していくわけです。決めた証に間違いがなければ、多くの症状が改善します。何度も体験した事実です。
東洋医学の治療
東洋医学では、気血が流れる体表の通り道を「経絡(経脈)」と呼びます。また、経絡上で気が出入りする場所を「経穴(ツボ)」といいます。鍼灸マッサ-ジでは、これらの経絡や経穴を通して病理を考え、治療方法を選択しています。
ただし、解剖学を初め近代科学的手法で、経絡や経穴の存在を確かめる試みが何度も行われましたが、見つかりませんでした。しかし、陰陽・五行学説で体系化された東洋医学の病理に従い施術すると、症状が改善されることは事実です。鍼灸マッサ-ジの臨床経験から、腰痛等の鎮痛治療のみならず、様々の愁訴の改善が期待できます。
経穴(ツボ)と経絡(経脈)
経穴(ツボ)は恒星(星)、経絡(経脈)は星座だと私は考えています。 宇宙空間に恒星が存在することは紛れもない事実です。しかし、星と星をつないで頭の中に描いたオリオン座、白鳥座などの星座は、実体のない人間の想像力の賜物です。 しかし、星座は「ギリシャ神話」に基づく非科学的なものだとうそぶけば、広大な宇宙の中から見たい星を探すのは至難の業となるでしょう。
経絡も同様で、約3000年間繰り返し治療に使われてきた経穴(ツボ)の性質の共通項を整理し関連づけ、ツボとツボのつながりを線で表し、肺経とか大腸経・・・と名付けたものです。 東洋医学は3000年以上前からの治療経験を口述または古文書により伝承してきたものです。その経験を系統的に整理するため、陰陽学説や五行学説が使われ体系づけられました。東洋医学は「経験的医学」、今日の西洋医学は「理論的医学」といわれる所以です。
東洋医学(鍼灸マッサ-ジ)の適応症
鍼灸治療が腰痛等の鎮痛に特化されるようになったのは、1971年以降、針麻酔が脚光を浴びた頃からです。しかし、鍼灸マッサ-ジ治療は鎮痛のみならず、様々の不定愁訴に対応できるのが本来の特徴です。
西洋医学は、血液等の生化学検査や画像診断の結果が異常とされる範囲に入らなければ、病名はつかないし、治療はできません。しかし、検査結果に異常がないのに痛い・つらいとおっしゃる患者さまが多数おられます。診察後に「様子をみて下さい」「大丈夫です」「加齢のせいです」等といわれ、途方に暮れている方々もその一例ですね。
鍼灸治療マッサ-ジの治療は、病院に行くほどではないけど「しんどい」とおっしゃる方々にも有効です。赤ちゃんからお年寄りまで、年齢に関係なく治療が可能です。
東西医学の共同に思うこと
医師・医学者の集う日本神経学会等で西洋医学と鍼灸医学のコラボレ-ションを追及する実践があります。東大や慶応大学医学部等では、鍼灸治療と研究も行われています。しかし、実際はコラボというよりも、「医師はエビデンスを求め、鍼灸師は地位向上を切望する」という勘違いの段階です。私は鍼灸治療の効果を西洋医学語で説明しようとは思わないし、医者に認めてもらおうとも思いません。例えるなら、日本文化の良いところを知りたいという外国人が、「英語で説明しなければ良さは認めない」というようなものです。英語に翻訳する仕事は、鍼灸師の仕事ではないと思います。患者さまの愁訴と向き合うことこそが仕事だと思っています。
経絡は有るか無いか?私はあまり関心がありません。経絡は解剖等では見つからないのだから、実在しないことは明白です。しかし、実在しない経絡の理論を日々治療に使っているし、患者さまの愁訴が改善できているのです。